Foveonユーザー向けのSIGMAの「ティールアンドオレンジ」が似合うおすすめのシーン

 今回は巷で話題のSIGMAの「ティールアンドオレンジ」を過去画を使っていろいろと試してみまして、実は意外と活用できるシーンも多いのではないのかとも感じております。お勧めのシーンを作例を用いながらご紹介してゆきたいと思います。

 

 

そもそも「ティールアンドオレンジ」って何?

 SIGMAのデジカメユーザーの間で話題となっている「ティールアンドオレンジ」。ファームウェアのアップデートによりFoveonユーザーでも「ティールアンドオレンジ」の色合いを楽しむことができるようになりました。

 実は、自分はsdQuattroHのファームウェアのアップデートはまだできておりませんが、SIGMAの無償RAW現像ソフトSIGMA Photo Proのバージョンアップを行い、パソコン上の作業で「ティールアンドオレンジ」を体験してみることができるようになりました。

 「ティールアンドオレンジ」はもともとは海外の映画などでよく使われる色合いの様ですが、作為的と言ってしまえばそれまでですが、逆に雰囲気たっぷりとも言う事ができると思います。

 映画の登場人物の肌色を印象的に表現する手法で、色合いに偏りがあり、人肌を浮き立たせるために背景は青み掛かった色調になります。

 SIGMAのFoveonセンサーに魅かれてFoveonを楽しんでいる方の多くは、その写実性に魅かれたというユーザーさんも多いのではないでしょうか。

 Foveonセンサー特有の空気感や立体感、またリアリティを追求した色合い。

 自分も実は、カラーモードについては、ほとんど「スタンダード」しか使っておりません。たまに「風景」を使うぐらいです。

 ですので、初めのうちは「ティールアンドオレンジ」のカラーモードは全く気にしておりませんでした。

 しかしながら、風景写真でも意外と使えそうだと感じたのは、夕暮れ時のまどろんだ空気感のシーン。昔は夕日やマジックアワーの時間帯にはいかに「赤みを出す」かに注力していましたが、最近では「赤くなりすぎない」様に注意しながら現像を行うように変化してきました。そういったシーンでは大いに活用できそうと感じましたので、SIGMA Photo Proをバージョンアップして、いろいろと試してみることにしました。

 

おすすめのシーン1 「部屋の中で撮影」

 「ティールアンドオレンジ」のカラーモードでは、どことなくノスタルジックな風味の色合いで、印象に訴えかけてくる味のあるものとなりますので、お勧めのシーンとしまして、部屋の中での撮影では活用できるシーンも多くなるかと思われます。

 こちらは「ぶどう寺」の愛称で親しまれている山梨県の大善寺。ドラマのロケでも有名になりました。空が写っていない場面ですのでオレンジの暖色系の色合いとなり温かみのある絵となりました。

 SIGMAはよく寒色系と言われたりもしますが、シーンによっては、暖色系の色合いに上手く活用することができそうです。

SIGMA sdQuattro iso200 F1.6 1/125sec 45mm相当

 次に、兵庫県の安国寺のドウダンツツジ。その一面に覆いつくす真っ赤なドウダンツツジが印象的な紅葉の名所ですが、「ティールアンドオレンジ」を使いますと、主役がドウダンツツジからお寺さんの部屋へ変化した様な気がします。本来は真っ赤な赤ですが、赤みが薄らぎ淡くなることによって、また手前の畳の陰陽など全体的にノスタルジックな雰囲気が強調される様になりました。

SIGMA sdQuattro iso200 F1.4 1/125sec 45mm相当

 

おすすめのシーン2 「紅葉の季節」

 「ティールアンドオレンジ」はオレンジ色が強調されますから、紅葉のシーンで活躍してくれるであろう事は想像に難くありません。

 しかしながら、少々癖があり、意外と紅葉シーンでは使える場面は限られているのかも知れません。

 紅葉のシーンで、単に「ティールアンドオレンジ」を選択しただけでは、黄色が赤くなり、全体的に紅葉が進んだ状態の色で染められる結果となります。紅葉の黄色から赤へのグラデーションが美しいなどというシーンではグラデーションを上手く表現できない場面も想定されると考えられます。イメージと異なる場合は「スタンダード」などのカラーモードを使った方が良い場合もあろうかと考えられます。

 こちらは、南清里で撮影した落ち葉。実際は、左の葉がもう少し赤くて、中央の葉がもう少し黄色かったと記憶しています。しかしながら、「ティールアンドオレンジ」を使用することによって、左の葉の赤みが和らぎ、逆に中央の葉の赤みが増し茶色っぽくなっております。若干淡いトーンの色合いになり、落ち葉のイメージに合う色合いとなった様な気がします。

SIGMA sdQuattro iso200 F6.3 1/250sec 231mm相当

 こちらは舞鶴市の金剛院の三重塔の紅葉。黄色い黄葉の部分が赤くなってしまうか心配でしたが、若干色温度を下げることで対応。コントラストの強い色合いの紅葉も素敵ですが、「ティールアンドオレンジ」で淡いトーンの紅葉の色合いにしてみますと、主役が紅葉から三重塔に変化した印象を受けます。歴史を感じさせる建造物がいっそう良く映えます。

SIGMA sdQuattro iso100 F2.8 1/100sec 45mm相当

 こちらは紅葉の名所室生寺のベンチに落ちていたもみじ。ベンチの木の質感も保たれています。Foveonセンサーは赤が飽和しやすく少々扱いづらい場面もありますが、「ティールアンドオレンジ」を使いますと若干色あせた雰囲気の色合いとなりますので、飽和には寛容になることもできます。

SIGMA sdQuattro iso200 F3.5 1/400sec 75mm相当

 

おすすめのシーン3 「西陽のあたる風景」

 今回、「ティールアンドオレンジ」のカラーモードをいろいろと試した中で、やはり一番のお勧めは、西陽のあたるシーン。

 赤くなりすぎずに温かみのあるまどろんだ空気感が表現できると感じました。

 こちらは沼津港近くの狩野川の河口。これは目に入ってきた景色、空気感、色合い、すべて完璧です。見たままの世界です。日没直後のまだ暗くなる前の時間帯。マジックアワーの美味しい時間帯よりも少し前。

 以前は夕焼け撮影では、赤みを増すために露出を暗めにして色温度を高めに設定して撮影していたのですが、どうしても全体的に赤くなりすぎてしまう。また、露出を暗くするのでシルエット重視となり、立体感や奥行き感が損なわれていた様に感じております。

 オレンジの色乗りが良いので、露出を明るめに設定でき、手前の木々と奥の山との奥行き感も良く表現できていると感じます。

 赤い夕焼けも素敵ですが、太平洋側ではオレンジの夕焼けのシーンの方が現実には多いかと思っており、こういうシーンではリアリティのある色合いに持って行ける様な気がします。

SIGMA sdQuattro iso100 F8 2/5sec 105mm相当

 それでは陽が落ちる前の、西陽の強く当たっているシーンではどうか。当たる西陽が岩肌を美しく染める西伊豆黄金崎の馬ロック。染まる岩肌、やや淡白な空の色の雰囲気がなかなか良く出ていると思います。

SIGMA sdQuattroH iso250 F3.5 1/1000sec 15mm相当

 こちらは北杜市の清里美しの森。「ティールアンドオレンジ」にしてみますと、全体的に茶色が濃くなった一枚です。茶色が濃くなったおかげで、ススキの金色に輝く様子が一層強調されるようになりました。

SIGMA sdQuattro iso100 F4 1/500sec 75mm相当

 夕日を狙った一枚も「ティールアンドオレンジ」のカラーモードにしてみました。浜名湖の弁天島。「ティールアンドオレンジ」に設定しますと、強い光源に対する耐性が若干ですが上がるようにも感じました。

SIGMA sdQuattro iso100 F9 1/200sec 267mm相当

 こちらは陽が落ちてからのマジックアワー。撮影時よりも露出を明るくしてますので、手前の鳥居と後方の高架の距離感、また奥の雲までの奥行き感も良く出ていると思います。

SIGMA sdQuattro iso100 F8 4/5sec 142mm相当

 こちらは西伊豆土肥の海岸の夕暮れ時。陽が沈みオレンジ色に染まってゆく空ですが、この様に部分的に染まり、空が青い部分も残っている場面に出会うこともあろうかと思われます。単に色温度を上げただけでは全体が赤くなってしまい、青さが表現できない。そういったシーンでも「ティールアンドオレンジ」は活躍しそうです。

SIGMA sdQuattro iso100 F22 1/5sec 36mm相当

 

おすすめのシーン4 「古い街並みや歴史を感じる建物」

 「ティールアンドオレンジ」はノスタルジックな色合いとなりますので、古い街並みや歴史を感じる建物にも良く似合う場面が多いかと思われます。

 こちらは舞鶴市の赤れんがパーク。独特の空気感が漂います。

SIGMA sdQuattro iso100 F1.4 1/1000sec 45mm相当

 もともとはもう少し赤みが強い印象の色合いで写っておりましたが、「ティールアンドオレンジ」に設定する事で、しなびた雰囲気がより一層表現できたように感じます。

SIGMA sdQuattro iso100 F3.2 1/160sec 75mm相当

 高山の夜の街並み。実際はもう少し黒い色の建物ですが、程よくオレンジが乗る事により、木の質感が表現できたかと思います。また、空が青み掛かってしまうところは好き嫌いが分かれる部分かとも感じますが、建物の形が浮き立つことを考えますと、これも在りかと思われます。

SIGMA sdQuattro iso100 F4 3/5sec 45mm相当

 

おすすめのシーン5 「モヤッとした風景」

 今までは「ティールアンドオレンジ」が似合いそうなシーンについて作例を挙げてみましたが、今度は少々意外なシーンについて「ティールアンドオレンジ」を試してみました。

 Foveonユーザーの皆さんは、そのバリっとした画質に魅かれて撮影しているという方も多いかと思われますが、「ティールアンドオレンジ」はモヤっとした風景の「モヤっと」した感じを増幅させてくれます。

 霧が晴れていない状況などでは、「モヤっと」した空気感を出したいこともあろうかと思われます。

 霧の晴れる前のモヤっとした箱根お玉ヶ池。モヤモヤっとした空気感が伝わってくれると思います。

SIGMA sdQuattroH iso100 F8 1/13sec 140mm相当

 違う角度からもう一枚。バリっとした表現ではなくてモヤっとした表現に生きるカラーモードでもあると感じます。

SIGMA sdQuattroH iso100 F8 1/13sec 82mm相当

 こちらは平塚市湘南平から望む江の島。モヤっとではありませんが、霞んでる様子が良く出ていると思います。

SIGMA sdQuattroH iso100 F9 1/60sec 157mm相当

 こちらもモヤっとした雰囲気とは少々異なるかもしれませんが、箱根の千条の滝。緑の苔が美しい滝ですが、敢えて「ティールアンドオレンジ」で。

 緑のコントラストが弱まり、流れ落ちる水がほんの少し青みを帯びて、幻想的な雰囲気が強調されます。

 初夏の緑の苔が美しい事を主題に置く場合はお勧めできませんが、冬の寒い中に流れ落ちる滝の表現としましては、これも在りだと感じました。

SIGMA sdQuattroH iso100 F10 3sec 98mm相当

 

おすすめのシーン6 「夜景」

 今回、「ティールアンドオレンジ」を試してみまして、一番意外だったのは夜景での手応え。

 夜景写真の現像では、色温度を低くしてクリアかつ幻想的な雰囲気を表現する場面も多くなるかと思います。

 好みの問題なのかもしれませんが、自分の場合は、色温度を下げていきますと、どうしても冷たい感じの絵になってしまって、光の温かみを感じられなくなる場合もありますので、極端に色温度を下げることはしてきませんでした。

 夜景で温かみを表現したくて色温度を上げてゆきますと、全体的に赤みが増えてしまい、クリアな印象が持てなくなってしまう事もあります。

 「ティールアンドオレンジ」のカラーモードを選択した上で、色温度を低くした設定に変更してみました。

 色温度を低くしたことにより、白系の光がクリアな発光となり、全体の引き締まった感じは継続しつつ、一部の光のみ暖色系が強調され、温もりを感じさせる夜景になった事は思わぬ収穫でした。適度に引き締め適度に温もりを感じさせる、正直好みの問題だとは思いますが、シーンによっては夜景でも活用できそうに感じました。

SIGMA sdQuattroH iso250 F3.5 4/5sec 15mm相当

 こちらは夜景を撮り始めたころの未熟な写真でチャンスがあれば撮り直しをしたい一枚ですが、昔撮影しました秩父の雲海。

 秩父の雲海は、街の街灯に照らされる雲海の幻想的な風景が特徴ですが、雲海の白さをある程度キープしたまま、温もりを感じる街の明かりも表現したい場合に、色温度を若干低めに設定して「ティールアンドオレンジ」のカラーモードにしますとなかなか雰囲気の出る絵になります。

 信号の赤も青もそれと解る色に収まっていますので、極端に不自然さを感じる色合いではないと思われます。

SIGMA sdQuattro iso100 F8 30sec 220mm相当

 

参考情報

 今回は、SIGMAの「ティールアンドオレンジ」を過去画を使っていろいろと試してみましたが、記載の内容につきましてはあくまでも個人的な感想でありますので、ご理解の程お願い申し上げます。

 自分はプロの写真家ではありませんし、学問として写真の理論を学んだこともないただの写真好きの感想となりますが、「ティールアンドオレンジ」はシーンによっては大いに活用できるのではないかと感じました。

 ただ、リアリティを追及してゆく場合は、色合いが少々作為的にもなりますので、不向きな場合もあろうかと思われます。どちらが良い悪いの世界ではなくて、どういう表現をしてゆきたいか、によってカラーモードを使い分けてゆくのが良いのではないかと改めて感じました。

 拙い写真と文章に長々とお付き合い下さりましてありがとうございました。

2020.05.18記